先日、テレビのニュースを見ていたら、キャンプ中の食中毒が増えているとのことです。
キャンプ中は、日常的な衛生環境とは大きく異なります。
いくつか気をつけるべきポイントがあるのですが、飲食店勤務経験10年超、キャンプ歴10年超で、食品衛生責任者の資格を持つ筆者がマジメに解説します。
キャンプ中における食中毒が発生しやすいシーンとその対策を解説する前に、食品衛生の基本である食中毒の発生原因から解説していきます。
食中毒を起こす原因菌が体に害を及ぼすパターンは2つ
食中毒というと、なんとなく増殖した悪い菌がたくさんついた食品を取り込んだことが原因で発症する、と考える人が多いのではないでしょうか。
実際間違いでは有りません。
そこから、「だから食べる前にしっかり加熱すれば大丈夫」と考える人もいるかと思いますが、これが必ずしも正解ではない、ということになります。
食中毒菌は感染型と毒素型に分けられる
食中毒は、
①食中毒菌そのものを体に取り込んだことで起こるケースと
②食中毒菌が増加する過程で毒素を産生し、その毒素を体に取り込むことで起こるケース
の2つに分けられ、それぞれ①感染型と②毒素型に分けられます。
①感染型の対策は十分加熱をすること。
感染型の食中毒菌は、代表的なものとしては、サルモネラ菌やウェルシュ菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ菌、大腸菌などがあります。
注意したいのは、生の鶏肉に多く含まれることがあるカンピロバクターです。
同じく生肉などからも検出されやすいサルモネラ菌がありますが、対策はほぼ同じです。
カンピロバクターやサルモネラ菌は、75℃で1分以上加熱すれば死滅します。
加熱すれば安心というわけではないウェルシュ菌に注意
加熱して菌を殺菌する方法で対応しきれないウェルシュ菌にも注意が必要です。
ウェルシュ菌は、主にカレーなどの粘度の高い煮込み料理の際にリスクが有る細菌です。
普通にカレーを作って食べる分にはほとんどリスクはありませんが、残ったものを翌日食べる際に注意が必要となります。
ウェルシュ菌が入ったカレーを鍋のまま残しておくと、菌がその中で熱に強い芽胞と呼ばれるものをつくり、その芽胞は、通常の温め直し程度の加熱では死滅せず、それが食中毒の原因になることがあります。
②毒素型の対策は作り置きしたものを食べないこと
毒素型食中毒の発生原因となる細菌で代表的なものは、圧倒的に黄色ブドウ球菌です。
他にボツリヌス菌やセレウス菌などありますが、発生頻度は多くありません。
黄色ブドウ球菌は、人の皮膚などに存在し、健康な人も2~3割くらいの人が保菌していると言われています。
食品への汚染経路も、ほとんどが人の手から食品にうつるケースです。
手洗いが重要ですね。
黄色ブドウ球菌は、菌が増殖していく過程で、エンテロトキシンという毒素を産出します。
この毒素は、通常の加熱では壊れないので、一定量以上を体内に取り込むと食中毒になります。
菌が増殖して、食中毒を起こすほどのエンテロトキシンを産出するには、数時間程度かかりますので、
作ったものをすぐに食べる分にはほとんどリスクが有りません。
逆に時間のたったおにぎりは要注意です。
食中毒の原因別患者数の分布
令和4年の食中毒の患者数(発生数ではない)の分布を見ると、食中毒患者の半数以上が細菌を原因とするものとなっています。
原因となった細菌のうちおよそ半数は、カンピロバクターとサルモネラ菌であり、食品の加熱不足により食中毒に至って、病院にかかったことになります。
次いでウェルシュ菌が細菌性の4割程度を占めています。
食品衛生の基本は、「つけない。増やさない、やっつける」
私が食品衛生責任者の資格を取った30年以上前から、使われている標語で「つけない、増やさない、やっつける」というのがあります。
- 食品に細菌をつけない:主に手洗いです。
- 細菌がついても増やさない:主に細菌の繁殖温度以下での保存です。
- 加熱処理をして殺す:食品の中心までしっかりと加熱してやっつけることです。
食品衛生の基本を学んだところで、キャンプシーンにおける対策を解説していきます。
キャンプでの食中毒対策
キャンプで食中毒が増加する要因は大きく3点
食品衛生の観点で言えば、キャンプで食中毒が発生しやすいポイントは大きく3点あります。
●加熱が十分でないこと
●調理後の食品を長時間経過後に食べること
●クーラーボックスなど、冷蔵環境が十分でないこと
こちらの3点です。
さらに言えば、自宅のキッチンなどと違って、すぐに手が洗えるような環境でないことも要因のひとつかもしれません。
そもそも屋外というほこりなどが舞いやすい環境であることと、いつもとは設備等が全く違う状況であることを認識し、食品衛生はいつも以上に配慮すべきです。
キャンプ中の食中毒対策(まとめ)
- 肉を焼く場所はランタンなどで明るくする。
⇛暗くて焼けたかどうかが分かりにくいのでテーブルトップのランタンを準備しましょう。
⇛調理用の箸(トング)と食べるときの箸は分けておきましょう。
- クーラーは、2つ用意し、生肉とその他のものは分けて保管する。
⇛厚手のポリ袋などに氷のパックと生肉のパックを入れて分けておくでもOKです。
⇛飲み物のクーラーは開ける頻度が高く、クーラー内の温度上昇を招きやすくなります。
⇛生肉は、保管中にドリップと呼ばれる液体が出て、これが生野菜などに付着すると細菌で汚染される可能性があります。 - クーラーの中身の1/3程度を氷にする
⇛クーラーボックスの本来の機能が発揮されるためには1/3程度の氷を入れる必要があります。
⇛生肉など、リスクのあるものは十分に氷を使用しましょう。
⇛ペットボトル氷は長持ちしますがその分冷却能力が低いため、普通の氷と併用しましょう。 - 作ったものはなるべくすぐに食べきるようにする
⇛キャンプに慣れないうちは、あれもこれもといっぱい作りがちですが、多く作りすぎないようにしましょう。
⇛余ったご飯やカレーなどを翌日以降食べる場合は、しっかり冷えたクーラーボックスで保存しておきましょう。ジプロックなどを準備しておきましょう。
⇛前日つくったものを食べるときは十分に加熱しましょう。 - 生食するものは、最初に調理しておく。
⇛生野菜や果物、薬味など、加熱せずに食べるものは、他の食材を調理する前に調理しておきましょう。
⇛可能であれば、生食用とそれ以外のまな板は使い分けしましょう。 - サニタリーグッズを活用する
⇛生肉などはエンボスグローブを使用して調理しましょう。
⇛殺菌には、アルコールが効果的なので、アルコールスプレーを準備しましょう。
⇛ウォータージャグを用意して、すぐに手洗いができる環境を整えましょう。
もしものときのために
食中毒、食あたりになってしまったときは、脱水症状になりやすくなります。
お酒やジュースだけじゃなく、お水やスポーツドリンクなども念の為準備しておきましょう。
暑い時期はどちらにしても熱中症の対策も必要になりますし。
楽しいキャンプとするために、正しい知識で食品衛生を。
「お肉は焼きすぎると固くなる」というのもありますが、あくまでそれは、安全を担保しやすい平常時の話。
キャンプ場では、そもそも医者にかかることも簡単では有りませんし、万一救急車のお世話になるとしても、立地的にかなりの時間を要することでしょう。
ある程度、余計に安全マージンを確保したうえでキャンプを楽しみましょう。