いろいろとデイツ社の歴史なども書いていましたが長くなりすぎましたので、別記事にしています。
デイツ社の歴史と因縁のフュアハンド社との関わりをまとめてみました。
こちらも是非合わせてお読みください。
-君はデイツ(Dietz)というランタンメーカーを知っているか-
先日、とある大手リユースショップのオンラインサイトを見ていたら、一つの商品が目に飛び込んできました。
商品名は”DIETZ オイルランタン LITTLE WIZARD”とあり、備考欄に「芯の上げ下げが出来ないのでジャンク」となっていました。
いつもなら、大人として華麗にスルーするところなのですが、何故かその存在感に心を奪われました。
気がつけば、ポチッと…
タンク内を覗いた先に見える星?たちよ…
早速、優しくサビ落としをすると、ボディ全体は意外と良好な状態。
ただ、ボトムの傷みが酷く、10数個のピンホールが確認できる状況。
さすがにこのままでは使えないため、色々と調べて、板金用はんだ+2液レジン+グラスウール+タンクシーラーで穴を塞ぐことに。
とりあえず使用できそうなので、個体の特定を。
サビ落としをおこなっている途中から、タダモノではない気配を感じていました。
パッと見で分かる情報としては、LOC NOBという種類のルビー色のグローブが使われていることです。
このグローブは、デイツ社の生産拠点が、香港に移る1956年よりも前のものについているケースが多いようです。
あとで分かったことですが、グローブはオリジナルではなく交換されたものでした。
まあ、ビンテージランタンにはよくあることです。
「雰囲気的にも、なんとなく戦前あるいは戦中くらいの製品かな。」とこのときは思っていました。
生産年と工場が分かるはずの打刻を読んだのだが…
通常は給油口がある面からみて右のチューブの内側に作られた工場の印と年月が打刻されていることが多いです。
例えば、S-10-35 とあれば、Siracuse(シラキュース工場)の1935年10月の製品、というような。
そのうえには「PATENTED」と、使われている特許の取得年月のような刻印があります。
PATENTED とは「特許を受けた」という意味です。
特許を取得した日付が書かれています。
改めてこのランタンを見てみると。
ん!? 刻印多くね?
刻印されていたものを以下にメモってみます。
PATENTED(特許を取得した年月日) | 海外サイトから照らし合わせた特許情報 | 備考・考察 |
FEB 98(1898.2.1) | Railroad Lantern | 関連が不明 |
JULY 11 98(1898.7.11) | 照合できず | |
AUG 7 00 (1900.8.7) | Outside Lift Lever | Tubeの外にあるLift Lever。グローブを傾ける仕組み。 このランタンは内側にあるが特許当初は外側にあった。 |
MAY 20 04 (1904.5.20) | 照合できず | |
NOV 19 07 (1907.11.19) | Lantern AirTube with Eyelet | ベイルとチューブの接合部にある真鍮製の金具 |
MAR 8 10 (1910.3.8) | Bail Retainer | ベイルが上部で金具によって固定される仕組み(standing bail)のこと |
JUNE 21 10 (1910.6.21) | Burner Fastening Device | 関連不明 |
MAY 7 12 (1912.5.7) | Short Grobe Lantern | C.T.Ham社のNu-Style Lantern? |
SEPT 9 13 (1913.9.9) | Hot Blast Lantern | ただのホットブラストはこの50年前に開発されているため、内容不明。July 15 13のRising Corn Burnerの誤りとすると整合性が取れる。 |
SEPT 16 13 (1913.9.16) | Telescoping Lantern Chimney | ランタン上部(煙突部)が伸縮してグローブを固定する仕組みのことと思われる |
10個のPATENTの取得年月が打刻されているようですが、製造年らしき刻印は見当たらなりません。
最初のPATENTの年月日が1898年(!)、最後のPATENTは1913年となっています。
Little Wizard(リトルウィザードについて)
デイツの公式の資料では、”popular Dietz lantan,the’Little Wizard’,was introduced in 1914.”とあり、リトルウィザードは1914年に発表されたようです。
デイツ社は、世界的にも歴史的にも重要なプロダクトを産んだ企業なのですが、残念ながら日本語で読める資料のようなものはほとんど存在しません。
英語でも、あまり詳しく書いてあるところは多くなく、ビンテージデイツの情報は貴重です。
1914年当時の状況は、1年前の1913年にC.T.Ham社が、現在のオイルランタンの原型とも言えるデザインのコールドブラスト式のランタン(Nu-Style Lantern)を発表して、デイツ社は、C.T.Ham社ごとその権利を買い取った、そんな時代でした。
その頃のアメリカといえば、統計上のデータでは1920年に電灯の普及率が35%とされており、1910年代は、電気の普及を中心としたイノベーションが時代を大きく変化させていた時期でした。
逆に言えば、まだまだ電気だけで生活できるような環境ではなく、燃料式の明かりもまだまだ現役真っ最中でした。
そうした意味においては、オイルランタンにも、手軽さと”電灯のような”明るさを求められる時代であっただろうことは容易に想像がつきます。
その要件を満たしたC.T.Ham社のNu-Styleはデイツ社としては是が非でも手に入れたいプロダクトであったのだろうと思います。
実際に、デイツ社の『D-Lite』としてラインナップされたそれは、瞬く間に全米、あるいはその他の国でヒット商品となりました。
もしかしてリトルウィザードの初期モデル?
リトルウイザードは、現在でも発売されているモデルであり、マイナーチェンジを数多く繰り返されているモデルでもあります。
そんな中で、時代を特定する上でわかりやすいマイナーチェンジの痕跡があるためそれを確認していこうと思います。
ベイルを立てる突起
給油口がある面を正面としたときに、ベイルと左側のチューブの接合部の上部に爪のような突起物があります。
これは、ベイルが上部で固定される仕組みです。
1920年当時のカタログには”Standing bail”と表現されています。
ベイルを立てる目的は、よく分からないのですが、上部で固定されることで、着火時にグローブと干渉しないようになっているということなのでしょうか。
この機構は、40年代、Little WizardにStreamlined(合理化された)のモデルが出る辺りまで続いていたようです。
したがって、この突起のあるモデルは、1940年以前のモデルである事が分かります。
フューエルキャップの形状
今回の製品のフューエルキャップは、凹型になっていて、表面部が凹んでいます。
キャップ自体は、現在でも構造に大きな変化はないようですが、デイツ社のカタログをみると1925年あたりから、この凹み部分にフタがされるようなデザインとなっています。
単純に考えて、へこんだままだと、ゴミが堆積して、そこに油分や水分が付着してしまうからではないかと思います。
現在のモデルはそのキャップの部分にDietzのロゴが入っています。
構造として不思議なのは、キャップ側がオスネジになっていることです。
これはフュアハンドも同じです。
ビンテージのコールマンやプリムスなどは、キャップ側がメネジになっていますが。
グローブリフトレバーの支点金具
正面からみて右側にあるグローブリフトレバーですが、この支点の働きをする金具の取付形状にも特徴があります。
支点となる部分の金具は、タンクよりも少し上の部分に取り付けられていますが、このあと確認できた1930年ごろのカタログでは、完全にタンクの上部とくっついています。
特許をみると1920年5月には、以下のような形状に変更されています。
これは、この製品がまさにそうなのですが、この金具がチューブに2点固定されていたことで、外れやすいということだと思います。というか実際に外れてしまっています。
カタログが旧式のままなのは、活版印刷だった当時は、いちいちマイナーチェンジされたイラストを治すことはしていなかったというのが私の推察です。
ボトム部分と3点固定することで耐久性が向上したものと思われます。
この3点固定ですが、1976年に発売された#76 オリジナル あたりまで継続されていたようです。
この#76は、フュアハンド社の275のデザインをコピーしたとされていますが、フュアハンド社は、かなり前から現在に至るまでこの金具を採用していません。
チューブに切りかけを作ってその機能を持たせています。そのほうがスマートですね。
ちなみに、戦前にフュアハンド社がデイツ社のジュニアというモデルをコピーしたとされる252(1928年~)には、2点固定の金具が確認できます。
火力調整ハンドルの形状
購入する際に芯の上げ下げができないとなっていたというバーナーのハンドル部分です。
(実際には何の問題もありませんでした。)
1920年代頃から現在においては、このハンドル部分は、軸の部分を「の」の字に加工して、つまみの形状にしています。
そして、実はこのことが大きな意味を持っていると考えます。
1917年11月27日にデイツ社は、Formed Wire Burner Shaft Handleという特許を取得しています。
直訳すれば、ワイヤーを曲げてつくったバーナーのシャフトハンドルと言う感じでしょうか。
なので、1917年前後からは、このハンドル部分は、のの字のハンドルに徐々に置き換わっていったと考えられます。
さらに興味深いことがありました。上の図の緑の線の部分です。
芯を上下させる歯車が3つついています。
しかし、当該の製品のものは2つでした。
このことから、当該の製品は1914年から1917年頃の可能性が出てきました。
チューブの形状
実は一番違和感があるところです。
チューブラーランタンの要とも言えるチューブの形状が、このあとから現在までのものに見られる特徴と異なるのです。
お分かりになりますでしょうか。下の1952年製のDietz Cometの画像を見るとよく分かります。
そうなんです。1920年頃のカタログを見ると、チューブの正面側中央にも、ヒダのようなエンボスが入っています。
今回の製品にはそれがありません。
1916年10月16日にDietz社は、”Lantern Air Tube”という特許を取得しています。
この特許が以下の図です。
1920年のカタログのPatentにも、Re-inforced(強化された) tubes との記載があり、Patentが古いものから記載されています。
それ以前ですので、やはり1916年までの製品と考えるのが妥当ではないかとの仮説です。
考察してみた
自分が手に入れた、というのもあるので、より価値が高いものに違いない!という希望的観測はあるのですが、それでも、特許などの歴史を見ていくと少なくとも1910年代に製造されたものであると推定できます。
特に1916年10月の特許の強化されたチューブは、以降のカタログにも、毎回記載されていますので、デイツ社としても、かなり重要な特許だったのではないかと想像できます。
現在でもほぼ同様の形状を残しているので、最終形態に近いものだったと思われます。
なので、それが採用される前の1914年、もしくは1915年に製造されたファーストモデルだった可能性が高いと考えています。
もちろん、当時の時代背景も考えれば、パーツなどの生産管理も今のように厳密にはされておらず、古いパーツを使い続けていて、生産年よりもズレていることは容易に想像がつきます。
しかしながら、そこまでズレてはいないのではないかというのが私の仮説です。
それは、C.T.Ham社を買収した1913年から1920年もの間、ものすごい数のpatentを登録しているからです。
これは、ライバル社との競争が激しかったことを意味しているのではないかと考えています。
競争に勝つためには、patentに登録するだけでは勝てず、製品として魅力のあるものにしていかなければならないからです。
そして、その競争相手は、国内の企業もあるとは思いますが、なにより、台頭し始めたフュアハンド社だったのではないでしょうか。
ちょっとだけ残念なこと
最初に書いたように、このランタンには、タンクのボトム部分にサビダメージによるピンホールがいくつもありました。
あとは、グローブが交換されていました。このグローブ自体に23年12月のPatentナンバーが記載されているからです。
このランタンについて調べたのは、雑に穴の処理をしてしまったあとのことで、ボトム部分については、原型をとどめていません。
直さなければ、使えない状態だったのですが、もう少し丁寧に治してあげればとだいぶ反省しています。
ただ、道具は使ってなんぼ、というのが私のポリシーですので、しっかり使い倒してみたいとおもいます。
しかし、壊れているリフトレバーをどうするかなあ…
とりあえず点灯!
タンクシーリングの硬化時間も十分に取りました。
あとチムニー内のサビが有りましたので、軽く落として耐熱塗料でマスキングします。
耐熱塗料は、180℃以上で硬化していきますので、硬化させる目的で1時間ほど点灯させてみました。
すごい雰囲気は出ていますが、いろいろと使いづらそうなので、
実際に使う際はクリアグローブに変更したいと思います!